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裁判官訴追委員会 裁判官の犯罪

裁判官訴追委員会

(1) 裁判官弾劾制度
司法権独立の原則は、近代立憲主義の基本原則の一つであり、司法権の独立を実質的に確保するためには、裁判官の身分を保障する必要があります。他方、国民主権の原理のもとにおいては、司法権もまた主権者たる国民の信託に基づくものですから、司法に国民の意思が反映されることも必要です。

日本国憲法は、司法権独立の原則の中核たる裁判官の職権の独立を明文をもって規定する(憲法76条3項)とともに、公務員を選定、罷免する権利は国民の固有の権利であることを規定し(憲法15条1項)、裁判官の身分保障の要請と国民の公務員罷免権の調和を図るために、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。」(憲法78条)と規定しました。この「公の弾劾」とは、強い身分保障を受けた公務員に非行があった場合に、国民の意思に基づいてその者の身分を剥奪する特別の手続であり、裁判官弾劾法(以下「弾劾法」という。)で定められた裁判官弾劾制度がこれに当たります。

(2) 裁判官弾劾の機関
日本国憲法は、裁判官が罷免の訴追を受けたときは弾劾裁判所によって裁判されると定めています(憲法64条)。

裁判官について罷免の訴追を行う機関が裁判官訴追委員会(以下 「訴追委員会」という。)です。衆・参各議院においてその議員のうちから選挙されたそれぞれ10人の訴追委員とそれぞれ5人の予備員で構成されています(国会法126条1項)(弾劾法5条1項)。

裁判官について弾劾の裁判を行う機関が裁判官弾劾裁判所(以下 「弾劾裁判所」という。)で、衆・参各議院においてその議員のうちから選挙されたそれぞれ7人の裁判員とそれぞれ4人の予備員で構成されています(国会法125条1項)(弾劾法16条1項)。

(3) 弾劾による罷免の事由
裁判官が弾劾により罷免されるのは、次の[1] 及び[2] のいずれかに該当する場合です(弾劾法2条)。

[1] 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
[2] その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。

  罷免を求めるには、裁判官の行為について、職務上の義務違反が著しいか、職務怠慢が甚だしいか、裁判官としての威信を著しく喪失させたかのいずれかの場合でなければなりません。訴追委員会が上記事由に該当するとして訴追をした事案の概要は、「(1)罷免の訴追をした事案の概要」に掲載してありますので、参考までに御覧ください。

  また、判決など裁判官の判断自体の当否について、他の国家機関が調査・判断することは、司法権の独立の原則に抵触するおそれがあり、原則として許されません。例えば、判決が間違っている、自分の証拠を採用してくれない等の不満は、上訴や再審等の訴訟手続の中で対処するべきものであり、原則として罷免の事由になりません。

  なお、弾劾による罷免の事由が発生した時点(例えば判決の日)から3年を経過したときは、罷免の訴追をすることができなくなります(弾劾法12条)。この3年は、訴追請求状を訴追委員会に提出する期限ではなく、提出後に訴追委員会が訴追審査事案を審議議決し、弾劾裁判所に訴追状を提出するまでの期間が含まれます(「(9)裁判官弾劾手続の流れ」参照)。

(4) 訴追の請求
日本国民は、裁判官に弾劾による罷免の事由があると考えるときは、訴追委員会に、罷免の訴追をするように求めることができます。罷免の訴追の請求をするには、その事由を記載した書面を提出しなければなりません(弾劾法15条1項・4項)。なお、罷免の訴追を請求するための費用及び手数料は、不要です。

なお、裁判官弾劾制度は、現職の裁判官を罷免するための制度ですから、既に裁判官の身分を失っている者は、訴追審査の対象となりません。

(5) 訴追委員会の調査・審議
訴追委員会は、訴追請求状を受理すると、訴追審査事案として立件し、調査・審議します。

訴追請求状の記載内容について不明な点などがある場合は、文書にて問合せをさせていただくことがあります。また、更に必要があれば、裁判記録を閲覧したり、関係者などについても調査をすることがあります。

訴追委員会が議事を開き議決するには、衆議院議員である訴追委員と参議院議員である訴追委員がそれぞれ7人以上出席しなければなりません(弾劾法10条1項)。

(7) 訴追委員会の決定
訴追委員会は、訴追審査事案について、次のいずれかの決定をします。

[1] 訴追の決定
弾劾による罷免の事由(弾劾法2条)に当たる事実があり、弾劾裁判所に罷免の訴追をする必要があると認めるとき。

[2] 訴追猶予の決定
弾劾による罷免の事由(弾劾法2条)に当たる事実があるが、情状により、弾劾裁判所に罷免の訴追をする必要がないと認めるとき(弾劾法13条)。

[3] 不訴追の決定
弾劾による罷免の事由(弾劾法2条)に当たる事実がないと認めるとき。

ただし、罷免の訴追又は罷免の訴追の猶予をするには、出席訴追委員の3分の2以上の多数でこれを決することとなっています(弾劾法10条2項)。

なお、訴追審査の対象となっている裁判官が、裁判官の身分を喪失した場合は、審査を打ち切ります。また、「(3)弾劾による罷免の事由」に記載のとおり、弾劾による罷免の事由が発生した時点(例えば判決の日)から3年を経過したときは、罷免の訴追をすることができなくなります(弾劾法12条)。

訴追請求状を受理してから審議議決に至るまでの期間は、半年から1年程度ですが、事案によっては、更に期間を要する場合があります。

訴追するかどうかを議決したときは、議決の結果について訴追請求人に文書で通知します。ただし、訴追委員会の議事は非公開(弾劾法10条3項)ですので、決定理由などをお教えすることはできません。

弾劾法において、不訴追決定に対する不服申立の制度は定められておりません。なお、裁判所は当委員会の決定の当否について審査する権限を有しませんので、不訴追決定の取消しなどを求めて、裁判所に訴えを提起することはできないとされています。また、一度訴追請求した裁判官につき、同一の訴追請求事由(実質的に同一である場合も含む。)に基づく再度の訴追請求はできません。

(8) 弾劾裁判所の裁判
訴追委員会は、罷免の訴追の決定をすると、弾劾裁判所に訴追状を提出します(弾劾法14条1項)。弾劾裁判所は、公開の法廷で審理を行い、罷免をするかどうかの裁判をします(弾劾法26条)。弾劾裁判所の裁判は一審限りで、不服申立の方法はありません。

弾劾裁判所が罷免の裁判を宣告すると、その裁判官は直ちに罷免されます(弾劾法37条)。また、それぞれの法律の定めるところにより、弁護士となる資格などを失います。

なお、罷免された裁判官は、資格回復の裁判により資格を回復することができます(弾劾法38条)。
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